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東京高等裁判所 昭和32年(行ナ)39号 判決

原告 堀江善四郎

被告 赤井芳助

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨及び原因

原告は、特許庁が昭和二十九年抗告審判第二、四四二号事件について昭和三十二年七月二十七日にした審決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告は、昭和二十五年一月十九日の登録にかゝる、登録番号第三六九、〇六三号「台紙取付式鍋つまみ陳列表」なる実用新案権の権利者であるところ、被告は、別紙(イ)号図面及びその説明書に示す台紙取付式鍋つまみ陳列表につき、昭和二十九年三月三十一日に、原告を相手取つて特許庁に対し、右実用新案の権利範囲確認審判請求に及び、該事件は同年審判第一二七号事件として審理の結果、同年十月十九日に、別紙(イ)号図面及びその説明書に示す台紙取付式鍋つまみ陳列表は登録三六九、〇六三号実用新案の権利範囲に属さない、旨の審決があつた。そこで、原告は、同年十二月七日をもつて、特許庁に抗告審判を請求し、同年抗告審判第二、四四二号事件として同庁に係属したが、昭和三十二年七月二十七日に至り、右抗告審判の請求は成り立たない、旨の審決がされ、原告は同年八月三日に右審決書謄本の送達を受けた。

二  該審決には、次に主張するごとき違法の点があつて、取り消さるべきである。

(一)  審決は、まず原告の実用新案の考案要旨を誤認した結果、(イ)号図面及びその説明書に示す陳列表を右実用新案の権利範囲に属しない、としたものである。すなわち、

(1) 原告の本件実用新案登録請求の範囲は、別紙表示のとおりであるところ、(イ)号図面及びその説明書の台紙取付式鍋つまみ陳列表は、その上部に示す鍋又は茶瓶の絵を鍋つまみを持てる婦人の絵と商標とに変更し、かつ台紙の上部に附設した掛紐を取り除いたものである。

ところで、本件審決の理由は、本件実用新案の構成中、「台紙(1)の上端に鍋又は茶瓶の絵を画いた」点をその目的及び作用効果から判断して考案構成上の必須要件と認め、この重要点を欠如する(イ)号図面及びその説明書に示す陳列表は、本件実用新案のそれと全体的構造において互に異なるものと認定した昭和二十九年審判第一二七号事件の審決の判断を是認して、本件実用新案にあつては、鍋つまみが何に使用されるかを明瞭に比較暗示し得る点において当然その図形は鍋又は茶瓶に限定されるべきであり、(イ)号図面に示したものの如く、何ら比較暗示されるべき対象物のない図形は当然本件実用新案の重要点を欠如しているものと認めたのである。

(2) しかし、本件実用新案の台紙取付式鍋つまみ陳列表の作用効果は、公報の説明書中実用新案の性質作用及び効果の要領の項に、「台紙1に取付けられた数多の鍋つまみ3は上部に之を取付けた鍋等の絵2のレツテルにより其の下の現物とを比較暗示せしめ、買手に安心感を与えしめ見易く買易き効果を発揮する特徴ある考案なりとす。」とあることによつて、明らかであるように、次の三点に存する。

まず

(イ) 「其の下の現物とを比較暗示せしめ」る点、本件審決は前記のとおりこれを以て本件実用新案の重要点であると認めたが、後に詳しく主張する通り、これは本件実用新案の作用効果の一部であるに過ぎない。

次に

(ロ) 「買手に安心感を与えしめ」る点、けだし、鍋つまみの販売店が、店頭で、鍋つまみを容器にバラバラに入れて販売するよりは、これを台紙に取り付けて、台紙取付式陳列表として販売するほうが、大部分婦女子である買手において、陳列表の表面に取り付けてある鍋つまみと、その裏面より差し込み栓で取り付けてある取付方法とを現実に一見し、家庭に買い入れて帰つても、婦女子が容易に鍋の蓋に取り付け得るとの安心感を、買手に与える効果である。

そして、最後に、

(ハ) 「見易く買易き効果を発揮する特徴ある考案なりとす。」とある点、これは、鍋つまみの販売店の店頭で、鍋つまみを容器にバラバラに入れて販売していたのでは、鍋つまみの大小、形、色が判明し難く、買手の必要とする鍋つまみを容易に見出すことが困難であるが、本件台紙取付式鍋つまみ陳列表のごとく、台紙の縦横に大小種々の鍋つまみを多数取り付け、陳列表としておけば、買手の必要とする鍋つまみが一目瞭然として判明し、買手にとつて非常に見易く買い易い効果を発揮することを意味するのである。これを要するに、本件実用新案の台紙取付式鍋つまみ陳列表は、その作用効果より推しても、台紙に鍋つまみを縦横に多数取り付けた点に、その考案の重要点が存することが明らかである。

(3) 本件審決は、右重要点を閑却し、前記(イ)の点のみをもつて、本件実用新案の作用効果であると考え、鍋又は茶瓶の絵の存することを考案の要旨と認めたが、これに関する審決の説示にも次のごとき矛盾があり、右(イ)の点は本件考案の奏する作用効果の一部であるに過ぎず、かつ本件考案に不可欠のものでないこと、明白である。

本件実用新案の登録請求の範囲に「鍋又は茶瓶の画2を画き」とあるとおり、本件陳列表においては、鍋の絵か茶瓶の絵か、いずれか一方の絵を画けばよいのであつて、あながち茶瓶と鍋との二個の絵を画く必要はない。またまた公報中、本件実用新案の図形に鍋と茶瓶との二個の絵が画かれてあることは、その実施の一例を示したものに過ぎないのである。しからば、台紙上部に茶瓶の絵のみを画き、下部に鍋つまみ(鍋つまみと通称されるもののうちに、鍋にのみ使用され、茶瓶には使用されないものがあるので、こゝにはそれを指す。)を多数取り付けた、鍋の絵なき鍋つまみ陳列表を想定すれば、いかなる結果となるか。審決の理由において、「鍋つまみが何に使用されるかを明瞭に比較暗示し得る点において」本件考案の重要なる作用効果が存するとしたことは、全然意味をなさないのである。審決は、「鍋つまみが何に使用されるかを明瞭に比較暗示し得る点において当然その図形は鍋又は茶瓶に限定されるべきであり、」としているが、茶瓶の図形を画いて、鍋つまみが何に使用されるかを比較暗示し得られないことは当然であつて、実に不合理、かつ不可解なる説示である、と言わざるを得ない。

要するに、審決は、本件実用新案の作用効果の一部に過ぎず、しかも不可欠のものでもない点を抽出して、考案の要旨を認定したことの誤まりに坐するものである。

(4) なお、(イ)号図面及びその説明書に示す陳列表においては、本件実用新案の陳列表中の掛紐5を欠如するが、この程度の変更は、右陳列表の全体的構造よりして微差たるに過ぎず、類似の範囲を脱せしめるものではない。

(5) 元来、実用新案は、型によつて表現された考案であるから、型を離れて類否を論ずることはできず、型の同一又は類似を確認しないで、効果の類否によつて判断をなすべきではない。しかるに本件抗告審判の審決は、効果の類否を標準として考案の類否を判断したものであつて、当を得ないものである。

本件実用新案の実施品なる検甲第一号証の一、二(抗告審判事件における甲第三号証の一、二)と、(イ)号図面及びその説明書の示す陳列表なる同第二号証の一、二(抗告審判事件の甲第四号証の一、二)とを対比すれば、両者の型として少なくとも類似の域に達していることは、明瞭である。

(6) 被告は、本件実用新案の台紙取付式鍋つまみ陳列表と同一性を有する鍋つまみ陳列表が、戦前においてすでに公知公用であつた、と主張するが、その証拠として提出した乙第六号証(在庫品通知表)によつても、被告主張の陳列表の裏面の構造が一切判明し難いので、それが本件実用新案の陳列表と同一性を有するや否やは明確でない。仮に両者が同一性を有するものであると仮定しても、原告の本件実用新案の正当に登録されている事実につき争のない以上、被告主張の公知公用の事実は本件の争点と何らの関係のないものである。

(二)  更に、本件抗告審判の審決は、次に主張する点において、理由不備の違法を犯している。

原告の昭和二十九年十二月七日附請求にかゝる本件抗告審判において、審判長は、被請求人なる被告に対して、これが答弁書は昭和三十年一月二十二日までに提出すべき旨通告したが、これは実用新案法第二十六条によつて準用される特許法第八十八条第一項によつて、答弁書提出期間の指定をしたものである。しかるに被告は右指定期間を約三カ月徒過した昭和三十年四月十九日附をもつて、答弁書を提出しので、原告は被告の該実用新案法違反の事実を直ちに主張し、かつその立証をもした。指定期間経過後提出の答弁書は、これを採用すると否とは、もとより審判官の職権事項に属するとは云いながら、本件抗告審判の審決書には、右違反事実の明示すらなく、したがつて理由不備の審決であると言わざるを得ない。

三、以上の理由によつて、本件審決の取消を求める。

第二答弁

被告は、主文第一項通りの判決を求め、次のとおり答弁した。

一、原告主張事実中、原告がその主張する登録第三六九、〇六三号実用新案権の権利者であること、被告が原告主張の通り別紙(イ)号図面及びその説明書に示す台紙取付式鍋つまみ陳列表につき原告の右実用新案の権利範囲確認審判の請求をし、その審決及び原告のこれに対する抗告審判請求の結果、原告主張の抗告審判の審決がされ、原告主張の日にその審決書謄本が原告に送達されたこと及び右抗告審判において被告が原告主張のとおり審判長の指定した期間を徒過して答弁書を提出した事実は認めるが、右審決を違法であるとして原告の主張する諸点は争う。

二、元来、本件各鍋つまみ陳列表と同一の台紙に多数の鍋つまみを取着した構造の陳列表は、大阪地方の当業者が大戦前数年間にわたつて、日本全国はもとより、朝鮮、台湾、満州、北支までに、数十万を販売し、誰知らぬものとてなき周知の物品であつたが、戦後に先輩の勧めで業界に入つた原告がいち早く本件その他の実用新案の登録をし、無効審判請求の除斥期間経過をまつて、その権利主張をし、同業者を困惑させているものである。

三、さて、本件実用新案の要旨を考えるのに、それは、説明書中「登録請求の範囲」に記載するように、

(イ)  台紙の上部に鍋又は茶瓶の絵があること

(ロ)  台紙に縦横にあけた孔に対し螺合式の鍋つまみを螺着したこと

(ハ)  上端に掛紐を有すること

の三点を構成要件とするものであることが明らかである。

ひるがえつて、添附(イ)号図面及びその説明書に示すものは、

台紙の上部に商標と婦人の絵とを描き、その下に縦横に併列してあけた孔に対し表裏から螺合式の鍋つまみを螺着した台紙取付式鍋つまみ陳列表

であつて、これを前者と比較するときは、その(ロ)の構成要件は具備しているが、(イ)及び(ハ)の構成要件を欠如しており、したがつて全体として後者は前者と別個の構造であり、前者の権利範囲には属しないものとしなくてはならない。何となれば、説明書中、「登録請求の範囲」なる項には、考案の構成要件のみを記載させる趣旨であることは疑う余地がなく、したがつて誤記と認められるような特段の事情のない限りそこに記載されたものはすべてその考案の構成要件であると認むべく、その一を欠如したものに対してはも早権利が及ばないこと、事理の当然といわねばならぬからである。

四、要するに、本件審決には何らの違法の点がなく、当然の審決と考えられるので、原告の本訴取消請求はその理由がない。

第三証拠〈省略〉

理由

一、原告はその主張の登録第三六九、〇六三号「台紙取付式鍋つまみ陳列表」の実用新案権の権利者であるところ、原告主張のとおり、被告が別紙(イ)号図面及びその説明書に示す台紙取付式鍋つまみ陳列表につき原告の右実用新案の権利範囲確認審判請求をした結果、右陳列表は前記実用新案の権利範囲に属しない、との審決があつたので(昭和二十九年審判第一二七号)、原告から抗告審判の請求に及んだが、昭和三十二年七月二十七日に、右抗告審判の請求は成り立たない、との審決がされ、(昭和二十九年抗告審判第二、四四二号)、その審決書謄本が同年八月三日に原告に送達されたことは、当事者間に争がなく、右審決の理由とするところが、原告がその要旨として主張する点に帰することは、被告の明らかに争わないところである。

二、本件登録実用新案公報の説明書に、登録請求の範囲として、別紙表示のごとき記載があることは、成立に争のない甲第一号証(本件実用新案登録証複本)添附の公報によつて明らかである。これによれば、本件実用新案の台紙取付式鍋つまみ陳列表の構造は、次の三点をもつて構成されている、ということができる。

(イ)  台紙の上端に鍋又は茶瓶の画を画いてあること

(ロ)  その下に縦、横に併列して頭部を木製とせる鍋つまみの差込止栓をその裏面より挿し通し頭部を螺着し固着すべくなしたること

(ハ)  上端中央に掛紐を添着したこと。

三、原告は、前示認定の本件実用新案の構造中、(ロ)の点のみに考案の重要点が存する、と主張する。

しかし、成立に争のない乙第一、二号証(昭和十五年四月一日附荒物雑貨商報の広告面)、第五号証(大阪地方裁判所昭和二十八年(ワ)第四、〇一八号実用新案権に基く妨害排除事件における証人時本律郎に対する証人尋問調書)、第六号証(在庫品通知表)、甲第八号証(特許庁における証人岡喜一郎に対する証人尋問調書)を総合すれば、台紙に縦横に多数の孔を穿ち、該孔にそれぞれ多数の鍋つまみを装着して成る鍋つまみ陳列表は、おそくも昭和十五年頃から、大阪の業者によつて、「ツマミセツト」の名のもとに、大阪市内はもちろん、東京、朝鮮、満州までにも販売されていたことが認められるので、本件実用新案の前記(ロ)の構成中、台紙面縦横に併列して孔を穿ち、そのそれぞれに多数の鍋つまみを装着する点は、右実用新案出願前(本件実用新案登録出願の日が昭和二十三年二月七日であることは、前記甲第一号証の公報の記載によつて明らかである。)すでに公知公用であつた、ということを得べく、またその装着の方法として本件実用新案におけるごとく、台紙の裏面より差込止栓を挿し通し、頭部を螺着して固着すべくなすことは、螺合式鍋つまみの構造に応じてこれを台紙に装着するの目的を達するため特に考案力を要しない通常の手段であると考えられるから、結局本件実用新案の登録請求の範囲に記載された右(ロ)の点は、右実用新案出願前公然知られていたところに属すると認めるのが相当である。

してみれば、本件実用新案の要旨は、右(ロ)の公知公用の事項に他の要件を結合した点にこれを求むべく、本件において(イ)号図面及びその説明書に示す台紙取付式鍋つまみ陳列表が本件実用新案の権利範囲に属するか否やを判断するについても、前記(ロ)の事項のみをもつてこれが基準とすることはできないものといわなくてはならない。

四、しからば、本件実用新案の考案要旨がいずれにあるかというのに、前記甲第一号証添附の本件登録実用新案公報の説明書中、「実用新案の性質作用及効果の要領」の項の冒頭に、「本案は小売店頭に吊下げ見易くせる鍋つまみを台紙に取付けるべくした陳列表の考案であつて、」とあり、また、その末尾に、「本案は右の如き構造であるから台紙1に取付けられた数多の鍋つまみ3は上部に之を取付けた鍋等の絵2のレツテルにより其の下の現物とを比較暗示せしめ、買手に安心感を与えしめ見易く買易き効果を発揮する特徴ある考案なりとす。」との記載のあることによつても、台紙の上端中央に掛紐を添着して、これを小売店頭に吊下げ、買手に見易いようにしたこと(前記(ハ)の点)及び台紙上部に、鍋つまみを取り付けた鍋又は茶瓶の絵を描いた部分を設け、これとその下部に装着した鍋つまみの現物とを比較することによつて、該鍋つまみの何に使用するか、またその使用方法を暗示し、買手が安心してこれを買い得るよう、買手において見易く買い易くしたこと(前記(イ)の点)に、本件実用新案の作用効果として意図したところが存することが、うかがい知られるのであつて、前記掛紐の存在、及び陳列表の上部に鍋又は茶瓶の絵を画いた部分(それが台紙の一部であると、また台紙に貼附したレツテルであるとは、これを問わない。)を存することも亦前記(ロ)の点と相まつて、本件実用新案の必須の要件であるといわざるを得ず、その考案要旨は前認定の公知公用の部分とこれらの部分との結合にあると解するのが相当である。

原告は、特に右(イ)の点につき、本件実用新案の奏する作用効果は、前記比較暗示の点に止まらず、これと別に、「買手に安心感を与え」る点及び「見易く買易き効果を発揮する」点を看過してはならない、と主張するが、こゝに指摘された二つの効果は、もとより、台紙に多数の鍋つまみを装着したという従来公知の構造と、かつ右台紙に掛紐を附して店頭につり下げるようにしたことゝ結合して、一層よく発揮されるものではあるが、上部に鍋又は茶瓶の絵を掲げたことゝ全然無関係のものではなく、これらの効果の存することは、本件考案の要旨が鍋又は茶瓶の絵にも存することと矛盾するものではない。

原告は、更に、上部に茶瓶の絵のみを画場合に下部の鍋つまみと比較暗示せしめるということは意味をなさない旨、審決のこれに関する説示を攻撃するが、一般に鍋つきみと指称されるものが、鍋及び茶瓶に共通して使用されることは、弁論の全趣旨に徴して明らかであるので、本件実用新案においては右通常の事態を予想して、鍋又は茶瓶の絵としたのであつて、もし、鍋のみに使用する鍋つまみ、或いは茶瓶のみに使用する茶瓶つまみというようなものがあるとして、前者のみを装着した陳列表に茶瓶の絵を掲げること、或いは、後者のみに用いる陳列表に鍋の絵を画くことを意味するものでないことは、本件実用新案公報中、説明書の前記各記載の文意に徴して、これを了解するに難くなく、審決の説示するところも亦その趣旨であることが明らかであるから、原告の右主張も亦当らない。

五、一方(イ)号図面及びその説明書に示す台紙取付式鍋つまみ陳列表は、本件実用新案の前記不可欠の要件である(ハ)の掛紐を添着せず、また(イ)の鍋又は茶瓶の絵に代えるのに、商標と鍋つまみを手に持つた婦人の絵とをもつてしたものであつて、前に認定した本件実用新案の必須要件を具備しないものであるから、右陳列表は右実用新案の権利範囲には属さないものというべきである。

六、実用新案の本質は「物品ニ関シ形状、構造又ハ組合ハセニ係ル実用アル新規ノ型ノ工業的考案」であることに存することは、実用新案法第一条により明らかであるから、その類否を判断するについても、型の比較によつてこれをなすべきことは、当然である。

しかし、本件実用新案において、台紙の上部に鍋又は茶瓶の絵を画いた構造は、前に認定したように本件実用新案の機能を果たすため、必須の要件と認められるので、その存すると否とは型としての相違であるといわざるを得ず、すくなくとも前記掛紐や公知公用部分と結合して観察した場合においてはやはり工業的考案における型と無関係のものとは考えられない。

したがつて、この点よりする原告の主張も理由がない。

七、最後に、本件抗告審判において、被請求人たる被告が審判長の指定した提出期間を徒過して答弁書を提出したことは、被告の認めるところであるが、審決書にかゝる事実を摘示し、判断を示すことは、別にこれを必要とする根拠のあることを認められないので、本件審決書にそのことに関する記載のないことは、本件審決を取り消すべき理由とするに足りない。

八、本件審決には取消の理由たるべき違法の点が認められないから、その取消を求める原告の本訴請求を理由がないものと認め、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内田護文 原増司 入山実)

(別紙)

本件実用新案登録請求の範囲

図面に示す如く台紙1の上端に鍋又は茶瓶の画2を画き、其の下に縦、横に併列して頭部を木製とせる鍋つまみ3の差込止栓4を其の裏面より挿通し頭部を螺着して固着すべくなし、且上端中央に掛紐5を添着して成る台紙取付式鍋つまみ陳列表の構造

登録番号369063 公報図面

第一図〈省略〉

第二図〈省略〉

第三図〈省略〉

(イ)号図面の説明書

図は台紙取付式鍋つまみ陳列表を示すもので、第一図は全体の平面図、第二図は各個の鍋つまみの取付状態を示す一部の断面図である。

図中(1)は台紙、(2)は台紙に貼付されたレツテル、(3)はつまみの雌部、(4)は同じく雄部である。

(イ)号図面

第一図〈省略〉

第二図〈省略〉

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